【目的】鍼灸治療の効果として最も顕著なものに鎮痛効果がある。そこで灸刺激の伝達・鎮痛機構を解明するためにc-fosを指標として形態学的に検討した。c-fosは細胞外からの刺激に応じて早期に発現し、蛋白・酵素・ペプチドなどの産生(特にEnkephalinやDynorphinなどのオピオイドペプチド)に関与している。 【方法】実験動物にウイスター系ラット(250〜350g)を使用した。灸刺激は重さ1g、直径0.7mm、高さ2mm、燃焼温度約120℃のペレット状のもぐさを作成し、麻酔下のラットの足底指球部に燃焼させた。 1.灸刺激10荘後の時間経過に伴う脊髄後角に発現するFos陽性細胞の分布様式の違いを免疫組織化学を用いて検討した。 2.灸刺激の回数を1回、5回、10回、20回、100回行い刺激2時間後の脊髄後角に発現するFos陽性細胞の分布様式の違いを免疫組織化学を用いて検討した。 3.灸刺激10荘1時間後のEnkephalinとc-fosの関係をin situ hibridization法と免疫組織化学を用いて検討した。 【結果・考察】10荘の灸刺激では、L4、L5のレベルで刺激後0.5時間から12時間までc-fosの陽性細胞が確認された。刺激2時間後には、後角のI・II層を中心に最も多くの陽性細胞が見られ、時間の経過とともにIV・V層に多く見られるようになった。また荘数の増加とともに、陽性細胞の数は増加した。この結果は、灸刺激による1次知覚の入力は、AδおよびC線維を介して脊髄後角に伝達され、上位中枢へ伝達されると考えられる。また荘数の増加に伴う陽性細胞の数の増加は、刺激量により賦活される細胞が増加していると考えられる。今後は、刺激量(灸の荘数)と時間経過に伴う陽性細胞の分布様式をさらに追究し、刺激量と賦活される細胞数やその経過を明らかにしたい。一方in situ hibridization法の検討からFos陽性細胞の中にはEnkephalin mRNAを有する細胞が確認された。この結果は、灸刺激に伴うFos陽性細胞の中には、鎮痛機構に働く細胞も賦活され、灸刺激に伴う鎮痛機構の一端をになうものと考えられる。今後は、更にmRNA発現の時間経過や他のペプチド等でも追究していきたい。
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