日常臨床の場で閉塞性無精子症患者の精巣生検時に、精巣の一部をHam'sF-12液中で細切すると精巣内精子が運動することを観察している。しかし正常精巣における運動精子の運動との相違についての研究はなされていない。実験計画書では実験動物にハムスターを用いることにしていたが、扱いなれているラットに変更した。まず成熟ラットを一側の精管を結紮し、他側はコントロールとしてsham operationを行った。42日目に屠殺し結紮側およびコントロール側の精巣と精巣上体尾部をそれぞれ摘出し、直ちにHam'sF12液中で細切し精子浮遊液を作製した。スライドガラスにそれぞれの液を一滴垂らしカバーグラスをかけたのち、37℃に維持したホットプレート上に載せ位相差顕微鏡にて観察した。精巣上体尾部よりの精子浮遊液は精子濃度が極めて高いため希釈する必要があり、観察しうる濃度まで希釈したが精子の運動がまったくストップしてしまった。この原因について文献の調査および精子運動を専門としている研究者に問い合わせ検討した。希釈液も文献上使用されている種々の液で検討したが安定したデーターを得ることが出来なかった。また精巣については精管結紮側もコントロール側も運動精子が観察できたが、精子自動分析機による精子運動のパターンの詳細な比較は不能であった。精管結紮側とコントロール側との精子運動のおそらく微妙であろう差を比較するには、さらに方法を改善し精子浮遊液の安定した作製法を確立する必要があるとの結論に達した。本研究は精路再建術後に精子の出現を見るも運動性が不良のため妊娠しにくいその原因に迫る研究として計画したが、今後は精巣内精子の運動機序の解明に迫るため、精子細胞膜を取り除いた除膜精子についてもその運動性を解析する手段を検討していく予定である。
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