実験系において誘導発現可能なヒトパピローマウイルス16型(HPV-16)E6遺伝子とE7遺伝子を、ヒト正常線維芽細胞(TIG-3)に導入しクローンを作成した。親細胞はPDL64で増殖停止し分裂寿命限界M1(mortality stage1)期に至った。HPV-16E6E7発現クローンはPDL78〜80に至るまで増殖可能であったがその後、E6E7遺伝子発現誘導下で細胞密度や増殖能が著しく低下した時期を経て、一部から継代可能な細胞が得られcrisis後と考えられた。telomeric repeat amplification protocol(TPAP)法を用いた解析で、HPV-16を有する子宮頚癌細胞株QG-H、HPV-18を有するHeLaにおいてテロメラーゼ活性を認めた。crisis後と考えられるE6E7発現クローン(crisis後クローン)は、HPV-16E6E7発現誘導下で親細胞に存在しないテロメラーゼ活性を認めたのに対し、発現誘導停止下ではテロメラーゼ活性を認めなかった。この事よりHPV-16E6E7領域発現のテロメラーゼ活性化への関与が示唆された。crisis後クローンにおける結果に対し、M1期前の比較的若いE6E7発現クローンではHPV-16E6E7発現誘導下においてもテロメラーゼ活性を認めなかった。HPV-16によるテロメラーゼ活性化には細胞種特異性が指摘されているが、crisis後クローンにおいてのみE6E7発現誘導下でテロメラーゼ活性を認めたことより、若い線維芽細胞に存在する細胞種特異性を、PDLの限界を超えたこのクローンが一部失っている可能性が示唆される。crisis後クローンはE6E7発現誘導停止下で細胞密度や増殖能が著しく低下しながらも増殖可能であった。このことより検出感度の限界あるいはテロメラーゼを必要としないテロメア維持機構存在の可能性が示唆される。検出感度及び、臨床微量検体に対する定量的検討の目的でstretchPCR法を導入し、子宮頚部前癌病変とされる子宮頚部異形成や上皮内癌を含む子宮頚部癌の多段階発癌過程におけるテロメラーゼ発現を引き続き検討中である。
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