本研究は、卵胞発育過程における細胞周期調節関連因子の関与をより系統的に検討することにより、発育途上における卵胞と閉鎖化していく卵胞及び黄体において、その増殖・増殖抑制機構を分子レベルで解明することを目的とする。今回は基礎的な研究として細胞周期調節因子、癌抑制遺伝子産物に対する抗体を使用し、原始卵胞、一次卵胞、二次卵胞、成熟卵胞、黄体を構成する細胞について免疫組織化学的検討を行った。正常月経周期を持つ女性から得られた卵巣40例(増殖期20例、黄体期20例)のホルマリン固定、パラフィン包埋の連続切片を用いた。免疫組織化学的検討を行うための一次抗体として以下に列挙する抗体を使用した。細胞周期調節因子:抗サイクリンA、サイクリンB_1、サイクリンD_<1、2、3、>サイクリンE抗体、抗cKc2、抗cdk2、抗cdk4。癌抑制遺伝子産物:抗p53、p21、p16、RB抗体。細胞増殖マーカー:ki-67抗体。今回の検討では他の文献的考察から核染色の認められた細胞を陽性細胞として判定した。その結果、原始卵胞及び一次卵胞においては細胞周期調節因子の明らかな発現は認められなかった。また細胞増殖マーカーであるki-67抗体の発現も観察されなかった。二次卵胞、成熟卵胞における顆粒膜細胞層においてサイクリンD_2、サイクリンB_1、cdk2、cdc2、ki-67の発現が観察された。更にそれらの細胞の中等度に腫瘍抑制遺伝子であるp16、RBが発現し、p53の僅かではあるが発現細胞が認められた。一方黄体ではサイクリンD_2サイクリンB_2、cdk2、cdc2、ki-67の発現細胞数の減少と、p53発現細胞数の増加が観察された。以上より卵胞の発育と黄体化においてはサイクリン、サイクリン依存性リン酸化酵素、腫瘍抑制遺伝子産物が関与し、しかもそれらのバランスによって、制御されている可能性が考えられた。
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