今年度行った研究により以下の新たな知見が得られた。 1.今回新たに樹立された絨毛癌細胞株の増殖倍加速度は約30時間で、既存の絨毛癌細胞株と同程度であった。また、ヌードマウス皮下の細胞を移植することにより腫瘍形成が認められ、得られた組織は由来組織と同一の形態を示した。 2.細胞遺伝学的検索では、染色体数は40と60付近にピークを認めた。また、患者本人および夫のリンパ球と細胞株から得られたDNAについて、PCRを用いてVNTR領域の比較を行った結果、細胞株のバンドのパターンは夫のそれと一致し、先行妊娠(胞状奇胎)と責任妊娠とが同一であることが証明された。 3.培養上清中へのホルモン分泌については、hCG、estradiol、progesteroneとも既存の絨毛癌細胞株のうち胞状奇胎を先行妊娠とするものとするものと同程度であり、上記2の結果を裏づけるものであった。 4.in vitoにおける抗癌剤感受性をMTT assayにより検討した結果、methotrexateについて既存の絨毛癌細胞株と比較し500倍以上という高度耐性を示した。一方、actinomycin-D、5-FUについてはほぼ同程度、etoposideについては2倍程度の耐性を示すのみであり、特にetoposideについては予想に反する結果であった。このことは、絨毛癌はmethotrexateを除いて薬剤耐性を獲得しにくい、という絨毛癌細胞特有の性質を示唆するものと言え、今後さらにその機序を究明する予定である。
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