最近、放射線や抗癌剤の治療において、p53およびp21(WAF1/CIP1)遺伝子の経路を介した細胞死(アポトーシス)が関与していることが明らかになってきた。臨床的にも正常型のp53を有する腫瘍では放射線治療によりアポトーシスが見られるが、変異をもつ腫瘍細胞ではアポトーシスがみられないことが報告されて注目されている。今回我々は、梨状陥凹型の下咽頭扁平上皮癌未治療新鮮例57例の治療前生検標本についてP53遺伝子ならびにP21遺伝子の発現を免疫組織学的に観察し、放射線の治療効果との関係を検討した。治療は原則として40Gy照射後、下咽頭喉頭全摘術および頚部郭清術を行った。原発巣の手術標本が保存されていた55例中8例においてviableな細胞が全く残存していなかった(PCR)。p53陽性20例中2例が、p53陰性35例中6例がPCRであった。一方、p21陽性16例中3例が、p21陰性39例中5例がPCRであった。いずれも統計学的有意差は認められなかった。また、初診時リンパ節転移が認められた42例中8例において摘出されたリンパ節にviableな腫瘍細胞は全く残存していなかった(NCR).p53陽性15例中5例が、p53陰性27例中3例がNCRであった(p<0.1)。一方、p21陽性13例中4例が、p21陰性29例中4例がNCRであった(NS)。リンパ節転移に対する放射線治療の効果にp53遺伝子が関与している可能性が示唆され、さらに症例数を増やして検討する必要があると考えられた。
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