目的は自己免疫性内耳性難聴モデルの作成である。このためには、実験動物の種(ラット、マウス)、系(DVGラット、SJL/J、c57BL/GJマウス)の選択、免疫する抗原(牛内耳膜迷路)、抗原の精製法(凍結乾燥末、SDS可溶分画)、免疫方法(免疫抑制剤の使用)などの検討が必要であった(括弧内は今回検討したもの)。この結果、c57BL/GJマウスにサイクロホスファマイド150mg/kgを腹腔内投与後、牛内耳蛋白(凍結乾燥末、SDS可溶分画いずれも)をフロイントの完全アジュバントとともに全身感作すると、高い再現性をもって内耳にリンパ球主体の炎症細胞浸潤が生ずることが判明した(論文準備中)。この細胞浸潤は基底回転鼓室階外リンパ腔に最も顕著で、第二回転鼓室階外リンパ腔、内リンパ腔、前庭外リンパ腔にもみられた。又、これは全身感作後10日目より観察され、2-3週間目で最も顕著であった。一部の動物には内リンパ水腫もみられた。この、リンパ球主体の内耳炎が自己免疫反応によるものであることを証明するにはリンパ球受け身移入実験が必要である。そこで上記マウスをdonorとし、このリンパ球を精製した後、recipientマウスに静注したところ、recipientマウスの内耳にリンパ球主体の炎症細胞浸潤が生じた。現在、この受け身移入実験を継続中である。今後、さらにこの動物の聴覚閾値の変化を測定し、内耳組織に対する自己免疫反応が、難聴を生じさせるか否かを検討し自己免疫性内耳性難聴モデルを確立させる。そしてこの内耳機能障害のメカニズムを、サイトカイン産生、接着分子発現、様々な生物活性物質の作用等の面から詳細に検討する。このモデルはヒト自己免疫性内耳性難聴の疾患概念確立、病態解明、治療方法の研究に大きく寄与することが期待される。
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