顔面神経麻痺患者における麻痺の評価には、顔面神経研究会提唱の10項目40点法やHouse & Brackmannのgrading systemなどがよく普及している。しかしこれらの検査は、検者の主観に頼っているために、検者の経験によって多少異なる評価になったり、また客観性と再現性に問題があることは否めない。そこで我々は、顔面の動きをパーソナルコンピューターに取り込み解析することで、これらの問題の解決をはかってきた。その結果40点法と本法がよく相関し、さらに本法は40点法と比べ微細な動きに対しても評価が行える点で優っていた。さらに簡略化を行う目的で、測定点を顔に貼り付けた20点の中で最もよく動く点に限定することを試みた。その結果、閉眼運動、開眼運動では眉毛最上点と眉毛内側点、微笑み運動、口笛運動においてはいずれも口角交点の外側1cmの点が最もよく動く点であることが分かった。つぎに測定点を限定することによりさらに再現性の検討が必要であると考え検討を行った。今まで表情運動の評価において、検者間の評価のばらつきについての報告はあるが、正常の表情運動について努力の差による差異や検査日の違いによる差異などの報告はほとんど見あたらない。そこで今回、これらについて検討を行った結果、最大限の努力を行っても多少は動きに差が出てくるので表情運動を詳細に評価するには、数回(最低でも3回)は同じ運動を行わせてその平均を取る必要があることが解った。また正常人においても検査日によっては顔の動きの良い日と悪い日を認めたが、左右比を考慮する限りにおいて再現性に問題はなかった。 我々の研究の最終目標は、神経刺激時における顔面表情運動の解析を行い、麻痺の程度の早期診断を行うことである。そのために、本年度は上述のごとく正常者において顔面表情運動の解析の簡便化、再現性に関する詳しい検討を行ってきた。
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