研究概要 |
有袋類(アカカンガル-とオポッサム)ならびに食虫類(オオアシトガリネズミ)の歯牙標本を材料に,樹脂鋳型法と共焦点レーザー顕微鏡を用いエナメル細管の観察を試みた.そして,エナメル細管の走行様式と諸構造が立体的に検索可能なことを確かめた.とくに,Villanueva bone stainを施した切片を共焦点レーザ顕微鏡で観察する方法は有用性が高く,画像処理ソフトを併用することで厚さ40〜50mmもの範囲で細管の三次元構築に成功した.オポッサムの歯牙では,サイトケラチン等の一次抗体を用いた免疫組織化学的染色により,上皮系細胞と間葉系細胞とが染め分け可能なことを確認し,今後の発生学的研究の予備実験とした. 樹脂鋳型法と共焦点レーザ顕微鏡により,エナメル細管における「象牙細管の本幹との連続」,「エナメル象牙境付近の膨隆と屈曲」,「エナメル質深層での分岐と再合流」,「エナメル質中層における屈曲と分岐」,「エナメル質中〜浅層にかけての終端」等の構造を,明瞭な三次元画像として捉えることができた.さらに,樹脂や色素の進入不可能な「閉鎖したエナメル細管」の存在も確認した.これらの構造のいくつかは既に報告されているが,今回得られた画像は,従来の光学顕微鏡やSEMを用いたものに比べ格段に認識性と実証性が高かった.また,エナメル質深層での分岐と再合流は小柱内で,エナメル質中層における分岐は小柱を超えて起ることも確認した.このことから,形成期におけるエナメル芽細胞と細胞突起の動態に部位差が存在すること,ならびに単一の細管の形成に複数の細胞と細胞突起が関与する可能性が示唆された. エナメル細管の発生に関する従来の研究では,部位差の存在に必ずしも充分な配慮はなされなかった.したがって本研究は,今後の発生学的研究における留意点も明確にしたと考えられる.
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