松本歯科大学解剖学教室所蔵の日本人下顎骨を用いて、計測・観察した。下顎骨に顎舌骨筋を付着させたまま屍体より分離し、顎舌骨筋以外の軟組織を除去した後、顎舌骨筋起始部の外形を、墨汁にて骨表面に記入し、顎舌骨筋剥離後、印記領域をトレーシングペ-パ-に写し、それを画像計測用ソフトに入力し計測した。顎舌骨筋付着部が歯槽頂に達しないもの(歯槽部の吸収の少ないもの)と、歯槽頂に達するもの(歯槽部の吸収の著しいもの)に分類した。顎舌骨筋付着部の面積は、顎舌骨筋線を境に、上部と下部に分けた。計測面積は、顎舌骨筋付着部の上部面積、下部面積、上部面積と下部面積を加えた総面積の三領域とした。次の如く途中結果を得た。顎舌骨筋線を境に、付着面積を上部と下部に分けた場合、上部面積と下部面積の間に有意な差は認められなかった。これら二つの面積値の変動は、それぞれの平均に対する相対変動(C.V.)で比較すればほとんど違いはなかった。すなわち、平均値での数値的な違いはあるものの、上部面積と下部面積の示す値から、顎舌骨筋線を境に、上部と下部に付着する顎舌骨筋の総面積は、ほぼ等しいと考えられる。しかし、見方を変えると次のようになる。歯槽部の状態により、吸収の少ないもの、吸収の著しいものに分けた場合は、上部付着部面積において、有意な差が認められた。すなわち、顎舌骨筋付着部の上部面積は、歯槽部の吸収により、萎縮もしくは退縮しているものと考えられる。また、下部面積においても有意な差が認められた。これは、歯槽部の吸収の著しいものは、下顎体内面で、オトガイ棘方向への顎舌骨筋の付着増大が考えられる。 本研究において、廃用萎縮の大きい下顎骨において、付着増大した顎舌骨筋をもとに、小臼歯部より前方の義歯床舌側縁をどのように決定すれば良いかを今後検討したい。
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