研究概要 |
細胞外マトリックスは組織を支える構造的要素であるだけでなく、多様な生理活性を示すことが明らかになっている。申請者らは、ヒト胃癌細胞STKM-1の無血清培養上清中に、ラット上皮性肝細胞株BRLの細胞間結合を阻害し、単一な細胞にまで分散させる新しい細胞外マトリックス(ラドシン/ラミニン-5)を見い出してきた。ラドシン/ラミニン-5は細胞分散活性、細胞接着活性、細胞運動促進活性をもつ機能性蛋白質であり、歯肉組織、表皮組織など特定の組織に分布している。本研究では、第一に口腔領域において重要な組織である唾液腺、口腔粘膜、歯肉の組織の発生と分化における本因子の機能の究明を試みた。しかし、歯肉上皮細胞や唾液腺細胞などの初代培養系を確立中であり、十分な検討が行えていない。第二に、ラドシン/ラミニン-5の受容体であるインテグリンα3β1を介した細胞機能の調節機構と癌の転移・浸潤との関係について検討を行った。その結果、ラドシン/ラミニン-5を分泌する癌細胞はインテグリンα3β1を介してラドシン/ラミニン-5へ選択的に接着し、移動性の癌細胞がラドシン/ラミニン-5を足場として活発に移動する可能性を示した(投稿準備中)。また、発癌プロモーターであるTPAがラドシン/ラミニン-5の分泌を誘導することを見い出した(Mizushima,et al.,J.Biochem.120,1196-1202,1996).以上、細胞外マトリックス/インテグリン系を中心にラドシン/ラミニン-5と癌の関係を明らかにした。
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