抗痙攣剤であるフェニトイン、カルシウム拮抗剤であるニフェジビンの服用により、しばしば歯肉増殖が起こることが知られている。歯肉増殖の解明のために、in vitroでは、ヒト正常組織由来の培養線維芽細胞へのフェニトインニフェジビンを投与・検討した研究は行われているが、歯肉増殖症患者の歯肉を採取・培養した線維芽細胞について、ヒト正常歯肉由来の線維芽細胞と病理組織学的・免疫組織学的に比較検討した報告は少ない。今回、歯肉増殖疾患者の歯肉を用い、唇頬側口腔歯肉上皮側・歯肉溝上皮側の異なる部位における線維芽細胞の差異についてAgNORs法、PCNA法等を用いて形態学的に検索することを目的とした。 【材料及び方法】フェニトイン、ニフェジビン服用により、歯肉増殖を示した患者の切除歯肉を用いた。また、コントロールとしてヒト正常歯肉を用いた。 (1)摘出物を唇頬・口蓋ないし唇頬・舌側で半割し、一方を培養に、他の一方を光顕観察に用いた。培養用の半割片は、唇頬側口腔歯肉上皮側、歯肉溝上皮側とでさらに半割し、上皮成分を除去し、結合組織成分を採取した。 (2)ダルベッコ変法イ-グル培地に10%牛胎児血清を加え、抗生物質として初代培養ではカナマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン、ジフルカンを、継代培養ではカナマイシンを添加し、CO_2濃度5%、湿度100%、温度37℃で培養した。そし4〜8代継代てした線維芽細胞について観察した。正常歯肉でも同様に継代培養した。 (3)光顕観察用試料の作成:培養開始時に光顕観察用に割断した標本を10%中性ホルマリンにて浸漬固定し、その後、通法に従いパラフィン包埋し、厚さ約3μmで切片を作製しH. E.染色、AgNORs染色、PCNA染色を施した。 (4)電顕観察用試料の作成:試料固定後、通法に従いエポン包埋し、透過電顕観察に供した。 【結果及び展望】光顕観察において、歯肉増殖を示した症例ではコントロールに比して、(1)唇頬側口腔歯肉上皮において上皮突起の細長い伸長がみられた。歯肉溝上皮では上皮内炎症性細胞浸潤が目立ち、糜爛、潰瘍形成も一部の症例で見られた。(2)上皮下に細胞成分に富んだ膠原線維の増生がみられた。また線維芽細胞が少なく硝子様変化を伴った症例もみられた。(3)上皮下の血管周囲性に慢性炎症性細胞浸潤がみられた。また口腔歯肉上皮側と歯肉溝上皮側とでは、後者でより強く、炎症性細胞浸潤がみられた。AgNORs染色により細胞活性能の検索すると、(1)上皮細胞では、歯肉増殖症の症例でより活性能が高く、特に口腔歯肉上皮側の上皮突起先端と歯肉溝上皮の基底層で高かった。(2)上皮下の線維芽細胞では、歯肉増殖症の症例でより活性能が高かったが、硝子様変化を示した症例では活性能はコントロールより低かった。(3)上皮下の線維芽細胞では、コントロール・歯肉増殖症の症例ともに、口腔歯肉上皮側と歯肉溝上皮側とでは明らかな差異はみられなかった。さらに電顕観察により細胞内小器官の動態を観察してゆきたい。これらの検索は、歯肉増殖症における、線維芽細胞の動態の解明の上で役立つと考えられる。
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