研究概要 |
コンポジットレジン修復歯の予後において、歯髄反応を呈さないまま歯髄が失活し根尖病巣を形成していることがある。臨床的にはネクローシスと診断されているが詳細な報告はほとんどなく病因は明らかにされていない。最近私達はコンポジットレジンの、歯髄細胞の形態ではなくその機能に与える影響が、他の修復材料とは異なることを明らかにした(日歯保誌,秋季特別号,1996)。一方、ネクローシスとは異なる細胞死の一機構としてアポトーシスがあり、様々な原癌遺伝子(c-jun,c-mycなど)が関与していることが報告されている。今回の研究目的は、アポトーシスのみならず、細胞の増殖・分化においても重要な役割を演じているc-jun,jun-Bの発現をみることにより、コンポジットレジン修復後にみられる歯髄死へのアポトーシス関与の有無を検討することにあった。まず、正常ウシ歯胚を用いてc-jun,jun-B両遺伝子の発現を検討したところ、両遺伝子が象牙芽細胞層にのみ発現していることが明らかになった。特にjun-Bは分化直後の若い象牙芽細胞に強く発現していることから、両遺伝子は象牙芽細胞の分化に関与すること、特にjun-Bは象牙質形成開始時期の象牙芽細胞の機能に関与していることが示唆された(J Dent Res,1997 in press)。また、ラット歯胚においても同様の発現が認められた。更に現在、ラット成熟歯におけるc-jun,jun-B両遺伝子の発現および窩洞形成後の歯髄における両遺伝子の発現について検討しているところである。今後は、TUNEL法などを用いてアポトーシス細胞の有無と、その細胞におけるc-jun,jun-B両遺伝子の発現を検討していく予定である。
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