本研究では、多機能性因子である各種のサイトカインが、ヒト歯髄細胞の増殖と硬組織形成能を有する細胞への分化に及ぼす影響を検索することを目的とした。多数存在するサイトカイン群の中で、今回は、細胞増殖因子のひとつとして骨吸収に関与しているといわれている上皮細胞増殖因子(EGF)と代表的な炎症性サイトカインのひとつであるインターロイキン-1(IL-1)を実験に使用した。 実験には、矯正治療上便宜抜去された臨床的に健全な歯を縦割断して歯髄組織を採取し、それを培養して得られた線維芽細胞様細胞をヒト歯髄細胞(DP細胞)として使用した。DP細胞の増殖に及ぼすサイトカインの影響は、Mosmannの比色法をもとにしたMTT法にて評価した。その結果、DP細胞にEGF10ng/ml作用させた場合、その増殖を軽度に促進した。また、IL-1を5pg/mlの濃度でDP細胞に作用させた場合、EGFの場合と同様に、その増殖を軽度に促進した。一方、DP細胞の分化に及ぼすサイトカインの影響は、Bessay-Lowry法に従い、アルカリフォスファターゼ(ALPase)活性の測定を行った。その結果、DP細胞にEGF10ng/ml作用させた場合、そのALPase活性を軽度に抑制した。以上のことより、EGFおよびIL-1がDP細胞の増殖ならびに分化を調節制御する一因子である可能性が示唆された。なお、現在、石灰化能に対するEGFおよびIL-1の影響について、Williamsらの方法に従い、石灰化物の組織化学的検索を行っている。それとともに、今後は、bFGF、TGFβ、PDGFなどの他の細胞成長因子やTNFα、IL-6、IL-8などの他の炎症性サイトカインのDP細胞に対する影響を検討していく予定である。
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