研究概要 |
顎関節症の成因ならびに発現機序は未だ十分に解明されておらず,その理由の一つとして原因および結果がともに多様性を持つ点があげられる.筆者らは,バイオフィードバックを利用した咬合診査法を顎関節症患者に応用し,良好な成績を治めている.そこで本研究では,原因を限定し咬合調整のみで治癒した,すなわち歯牙接触の異常のみによって発症した顎関節症患者40症例を対象とした.これら患者の治療前後ならびに正常有歯顎者12名の咬合接触状態と咬合力の歯列上分布を検索し,分析した結果,以下のことが明らかとなった. (1)咬合接触点数は,治療前(4.2±2.3点)に比較し,治療後(12.2±4.0点)は,有意に増加したが,正常有歯顎者(21.5±7.7点)よりは少なかった.(2)咬合接触点数の左右差(|R-L|/R+L)は,治療前(0.54±0.32)に比較し,治療後(0.11±0.11)は,有意に減少し,正常有歯顎者(0.10±0.08)と差は認められなくなった.(3)咬合接触面積は,治療前(1.8±1.3mm^2)に比較し,治療後(7.0±3.4mm^2)は,有意に増加したが,正常有歯顎者(11.8±7.0mm^2)よりは小さかった.(4)咬合接触面積の左右差(|R-L|/R+L)は,治療前(0.55±0.33)に比較し,治療後(0.15±0.13)は,有意に減少し,正常有歯顎者(0.15±0.10)と差は認められなくなった.(5)第一大臼歯と第二大臼歯の咬合接触面積比は,治療前(0.24±0.43)に比較し,治療後(1.30±1.30)は,有意に増加し,正常有歯顎者(1.23±0.25)と差は認められなくなった.(6)咬合力の歯列上分布における左右差は治療に伴って減少し,正常有歯顎者と差は認められなくなった.(7)咬合力の歯列上分布パターンが治療に伴って変化し,正常有歯顎者と似た傾向を示すようになった. 以上より,咬合接触状態と咬合力の分布様式の変化が,顎関節症の治癒に関与していることが明らかとなった.
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