研究概要 |
本研究は,ストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病ラットの臼歯部口蓋を対象として,義歯床を介して加えられる咀嚼圧によって義歯床下組織に惹起される病理組織学的変化に対して糖尿病が与える影響について,組織計測的ならびに病理組織学的手法を用いて検討するとともに,咀嚼圧の大きさとの関連において検討を加えることを目的とした. STZによって糖尿病を誘発した15週齢のウイスター系雄性ラット155匹を用いた.安静時には義歯床下組織と無圧の状態で接触し,咀嚼時には100,50または13μm沈下して義歯床下組織に咀嚼圧を加える義歯床を1群(40匹)ずつの動物に装着した.義歯床および義歯床下粘膜の清掃は3〜4日毎に行った.対照群(35匹)のラットについては無処置のまま経過させた.義歯床装着の3日,1,2,4,8,12および20週後に各群の5匹ずつを屠殺して義歯床下組織を採取し,通法に従って第1臼歯部において前頭的な4μmのパラフィン切片を作成し,これにヘマトキシリン-エオジン染色を施して光学顕微鏡下で病理組織学的変化を観察した.組織計測によって上皮組織の面積,粘膜固有層の面積および破骨細胞数を求めた.また,義歯床下組織に加えられる咀嚼圧の大きさは,各義歯装着群の残る5匹ずつを対象として,義歯床装着時,3日後および1週後以降1週毎に20週後まで測定した.得られた結果を,健常ラットを対象とした同一条件下の研究結果(原,1991)およびSTZ誘発糖尿病ラット臼歯部口蓋の組織変化(白井,1994)と比較しつつ検討を加えた. その結果,糖尿病は,咀嚼圧によって義歯床下組織に惹起される病理組織学的変化に対して次の影響を与えた.1)上皮細胞間の結合を脆弱化し,その程度を経時的に増強した.2)上皮組織の退行性ならびに増殖性の変化を減弱した.3)粘膜固有層の圧扁を増強した.4)炎症性細胞浸潤を増強した.5)炎症性細胞浸潤を惹起する咀嚼圧の閾値を低下した.6)破骨細胞の出現数を増加し,その発現期間を延長した.6)破骨細胞の出現をもたらす咀嚼圧の閾値を低下した.8)骨芽細胞の出現を阻害した.9)咀嚼圧の経時的減少率を増加した.本研究の結果から,糖尿病は義歯床を介して加えられる咀嚼圧に対する義歯床下組織の耐性を低下させることが示唆された.
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