平成8年度の研究計画では咀嚼運動中の関節空隙の観察と表示用ソフトの開発および顆頭の解剖学的形態と下顎運動の関連性の検討の3つを目標に掲げたが、形態と運動の関連性については被験者数が少なく明確な結論を得るには至らなかった。以下に関節空隙の観察結果について述べる。咀嚼時の任意の下顎位について顆頭上の約8000点での関節窩と顆頭の間の最短距離を計測し空隙量とし、さらに空隙量を1mm間隔で5段階に分け各段階ごとに面積の総和を算出して近接部位の面積として咀嚼時の各下顎位を時系列に配列し検討した。被験者Aの結果は、ガム咀嚼時の終末位で5mm以下の空隙量を示す部位の総面積は作業側が264.6mm^2平衡側が249.6mm^2、1〜2mm空隙量の部位は作業側が36.4mm^2平衡側が53.3mm^2、2〜3mmの空隙量の部位は作業側が156.0mm^2平衡側が128.4mm^2であった。開口路上の下顎位では5mm以下の空隙量の部位の総面積は作業側が128.5mm^2平衡側が211.9mm^2、1〜2mm空隙量の部位は作業側が25.4mm平衡側が53.3mm^2、2〜3mmの空隙量の部位は作業側が49.4mm^2平衡側が42.2mm^2であった。開口路から閉口路への変曲点では5mm以下の空隙量の部位の総面積は作業側が66.8mm^2平衡側が68.4mm^2、1〜2mm空隙量の部位は作業側が20.2mm^2平衡側が28.0mm^2、2〜3mmの空隙量の部位は作業側が21.8mm^2、平衡側が17.3mm^2であった。閉口路上の下顎位では5mm以下の空隙量の部位の総面積は作業側が263.0mm^2、平衡側が150.7mm^2、1〜2mm空隙量の部位は作業側が42.5mm^2、平衡側が36.4mm^2、2〜3mmの空隙量の部位は作業側が140.1mm^2、平衡側が38.0mm^2であった。以上より咀嚼運動中の関節空隙量は作業側と平衡側で動態が異なるものの絶えず1〜2mmであることがわかった。
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