手術材料より得られた唾石についてタンニン酸グルタル-アルデヒド混合固定法を試行し、唾石の石灰化構造を超微形態について病理組織学的に観察を行ない以下の結果を得た。 【実験方法】 1.手術材料より得られた唾石6症例計8個(3mm×3mm〜18mm×21mm)を観察対象とした。 2.摘出後、唾石の表層より細菌培養を行なった。 3.唾石の表層を可及的に紛砕し、1%タンニン酸を含む2.5%グルータルアルデヒド(0.2Mカコジレート緩衝液pH=7.2)と含まないものの2群に分けて前固定を行ない、1%OSO_4にて後固定を行なった。以下通法に従い減圧下でエポン樹脂包理し、非脱灰標本のままダイヤモンドナイフで超薄切片を作製し観察用試料とした。 4.リン脂質のコリン基との反応生成物である一定の周期幅を有する多層膜構造物(MLB)の局在を観察した。また一部試料は石灰化構造物について、エネルギー分散型分光器による分析電顕(EDS)で検鏡した。 【実験結果】 1.細菌の同定検査では、Streptcoccus sp.とKrebsiella sp.が検出されたが、抗菌剤を投与されていたこともあり、唾石の形成との有意な関連性を示した菌種は確認されなかった。しかしながら透過電顕において、石灰化層で観察された変性した細菌菌体内部に、電子密度の高い針状結晶構造物が認めらた。エネルギー分析電顕でその結晶物がCaとPからなることが確認され、細菌が唾石の石灰化に関与している可能性が強く示唆された。 2.タンニン酸前処理をした群では、明暗の規則的な4-6nmの周期構造を有するMLBが観察された。 3.MLBは唾石に含まれるリン脂質であり、石灰化結晶針状結晶構造物に連続してこのMLBが認められ、唾石の初期石灰化にリン脂質が関与していることが形態学的にも明かとなった。
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