口臭症患者や歯周病患者の口腔内に存在する血球成分や上皮細胞などのタンパク成分と、その分解物を有する各種細菌が舌乳頭の間にたまってできた舌苔は、口臭の発生源の第一の場所として注目されているにもかかわらず、そこに存在する細菌叢の組成や代謝が口臭にどう影響するかについての報告は少ない。そこで我々は、以下の点について検討を試みた。 1.舌苔の細菌学的検討 被験者を、海津法(1976)による官能評価が2(明らかに口臭を感じるもの)以上の口臭(+)群と、1 (かすかに口臭を感じるもの)以下の口臭(-)群に分け、それぞれの舌苔の厚さ、広がりを奈良法(1975)により記録した。また、各群の被験者の舌苔サンプルを採取し、ブルセラHK培地、TSA培地や各選択培地に塗沫した嫌気培養及び好気培養を行った。その結果、口臭(+)群が(-)群に比べ、奈良法による舌苔スコアが高く、また全菌数、全菌数に占める嫌気性菌、特に黒色色素産生菌の占める割合が高く、具体的にはPorphyromonas属、Prevotella属、Fusobacterium属などの嫌気性菌の比率が高い傾向がみられた。今後、例数を増やした上で統計学的検討を加えたい。 2.ガスクロマトグラフを用いた舌苔サンプルからの揮発性硫化物の検出 各種液体培地で培養した同サンプルの試験管のヘッドスペース中に産生されたガス体試料をFPD検出器ガスクロマトグラフに導入した。その結果、口臭(+)群から得られた細菌サンプルの産生ガス体の方が揮発性硫化物、特に硫化水素とメチルメルカプタンと思われる位置のピーク高が口臭(-)群に比べ高かった。しかしながら、サンプルによるばらつきが大きいために、培養条件や検出条件の改善を図ると同時に、その他の臭気物質(揮発性脂肪酸など)についても検討を加える予定である。
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