歯根象牙質の脱灰・再石灰化においては、無機質のみならず有機質の変化も考慮しなければならず、脱灰-再石灰化過程での化学的変化は現在なお十分に解明されていない。そこで、本研究では、この点を明らかにするため、無機反応物ならびに有機反応物の微量検出に威力を発揮する最新のマイクロレーザーラマン分光法を用いて、脱灰-再石灰化過程における歯根象牙質表層の表面分析を行った。 まず、リン酸脱灰を行うと、エナメル質アパタイトの強度が減少し、炭化水素(有機成分)の相対割合が多くなった。出現ピークより、この有機成分はコラーゲン由来であることが確認された。つまり、酸処理によってアパタイト成分が除去され、表層に象牙質コラーゲンが出現していることが示唆された。クエン酸処理面も、リン酸処理面と同様の傾向であるが、その割合が小さかった。 これらの脱灰処理サンプルを再石灰化液に浸漬させ、その変化をマイクロレーザーラマン分光法によって解析した。その結果、脱灰処理により減弱していたアパタイトの強度が元のレベルまで回復した。また、アパタイト由来のピーク波数が高波数側にシフトし、ヒドロキシアパタイト成分の一部がフッ素化していることが示唆された。この結果は、マイクロラジオグラフを用いた根面う蝕の再石灰化に関する報告と一致するものであった。 また、これらの歯根象牙質の脱灰-再石灰化処理による効果は、エナメル象牙境、歯髄腔側など部位によって異なることも認められた。
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