研究概要 |
トリプシン様酵素に特異的な逆性基質(p-グアニジノフェニルエステル)の、任意のアシル基を酵素活性中心内に導入できる性質を利用したペプチド合成法の開発の目的で、(1)逆性基質の合成及びトリプシン活性の測定、(2)トリプシン触媒ペプチド合成への応用、(3)化学修飾酵素メチルトリプシンによる縮合反応の試みについて検討を行なった。 Boc-アミノ酸、オリゴペプチドをアシル基にもつ逆性基質を、1-[N,N'-Bis(Z)]amidinopyrazoleによるグアニジノ化を経る簡便合成法により合成した。速度論的解析より、いずれもトリプシンに良好な基質であった。 トリプシン触媒による逆性基質とAla-pNAとの縮合反応を、50%DMSO-H_2O混合溶媒中で行なったところ、トリプシンの基質特異性に拘らずペプチドを生成した。さらに、非天然アミノ酸であるα,α-二置換アミノ酸の逆性基質を用いた場合も、効率良くペプチド縮合反応が進行することを示し、酵素法では初の非天然型アミノ酸含有ペプチドの合成を達成した。 修飾酵素メチルトリプシンのペプチド合成への応用性を検討した。トリプシンの活性中心His-57のイミダゾリル基を、修飾試薬により選択的にメチル化し、アフィニティークロマトグラフィーで精製した。得られた修飾酵素の基質親和性は通常型トリプシンと同程度であったが、アミダーゼ活性はほぼ消失し、エステラーゼ活性も未修飾トリプシンの0.05%程度であった。未修飾トリプシンと同条件でペプチド合成に用いたところ、縮合反応は進行するものの反応速度は遅く、副反応である基質の加水分解がペプチド縮合反応に優先する傾向が見られた。今後、反応条件の再検討を進める予定である。
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