研究概要 |
本研究では、新しいコンセプトを持った癌治療剤の開発の一環として、微生物由来の癌分化誘導物質を見いだすことを目的に1年間研究をおこなってきた。医薬品資源として、土壌、植物および海洋由来微生物の生産する生理活性物質に注目しスクリーニングを開始した。スクリーニング方法としてはヒト急性前骨髄性白血病(HL-60)細胞を用い、同細胞に対し分化誘導作用を示し、かつ細胞毒性作用のないものを約4,000種の糸状菌ならびに放線菌の培養液から探索した。分化誘導作用が認められ、さらに、安定性や培養の再現性の認められた数種の微生物から、最終的に海洋由来の一放線菌(MM-380)を選択した。MM-380株は、海水含有培地でのみ分化誘導活性物質を生産する興味ある希少放線菌で、菌学的な研究からNocardiopsis属であることが明かとなった。同株を2.4%澱粉,0.1%ブドウ糖,0.3%ペプトン,0.3%meat extract,0.5%酵母エキスt,0.4%CaCO_3,5mg/ml trace metals solution,0.5%セカード(100mesh)の組成から成る培地を人工海水(Jamarin S)でpH7.0に調整し、同培地中で96時間、27℃で培養したろ液の中より4種の新規活性物質を単離した。得られた活性物質は、各種機器スペクトルデータの解析により、いずれもα-pyrone環を母格に持つ類縁体で、25〜6.25μg/mlの範囲でHL-60細胞に対して分化誘導活性を示した。また、この4種のα-pyron類は細胞毒性(100μg/ml)や抗菌活性(1,000μg/ml)も示さない事も明かとなっている。 今年度の研究で、これまでに知られているビタミンAやステロイド誘導体とはまったく異なったα-pyron誘導体が分化誘導活性を示すことを明かにした。今後はこれらの化合物の作用機序の検討を行なう予定である。
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