研究概要 |
細胞表層に存在している糖鎖による細胞間相互認識が細胞接着の初期段階に重要な役割を果たしていることから,発生,分化,免疫,炎症,癌転移などの生体現象の解明にオリゴ糖およびその類縁体を利用する試みが活発に行われている。とりわけ,シアロルイスXと呼ばれるオリゴ糖は白血球の炎症部位での遊走や癌細胞の転移等に関与していることから注目されている。 著者らは昨年,フコース,グルタル酸およびヒドロキシスレオニンより構成される,大量供給可能なシアロルイスX類似体の合成に成功し,本化合物がシアロルイスXと同等のE-セレクチン結合能を持つことを明らかとした。そこで今年度は,新たにフコース残基とグルタリルヒドロキシスレオニン部を結ぶスペーサーの長さとその結合様式を変えたシアロルイスX類似体およびグルタル酸の替わりにシアル酸を有する類似体の合成を計画した。さらに合成された各シアロルイスX類似体のELAM-1への親和性の測定と各化合物の立体配座の検討も計画した。 各標的化合物の合成には,市販品として入手できないアロヒドロキシスレオニンの調製が必須であり,昨年度も利用したCandida humicola(AKU5386)由来のL-スレオニンアルドラーゼによるグリシンとベンジルアキシアセトアルデヒドの縮合を用い調製した。スペーサーの長さは合成中間体である1-C-アリル-2,3,4-トリ-Ο-ベンジルフコースをオゾン分解後,還元し,得られるアルコール体をハイドロボレーション酸化により炭素数の一つ多いアルコール体へと誘導し調製した。結合様式は上述のアルコール体をブロマイド体へと変換することにより,エステル結合とした。以上,.スペーサーの長さとその結合様式を変えたシアロルイスX類似体の簡易合成を達成した。さらに,合成の最終段階で結合させるグルタル酸の替わりにシアル酸を用い,より天然体に類似した化合物の合成にも成功した。以上得られた標的化合物についてELAM-1への親和性を測定した。さらに,各化合物の立体配座をNMRの詳細な解析により検討した。
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