研究概要 |
フラーレンの生体膜に対する影響を調べる目的で、界面活性剤ポリビニルピロリドンで可溶化したC_<60>水溶液を用い、可視光照射下兎赤血球の溶血実験を行った。その結果、照射2〜4時間において有意に溶血現象がみられ、C_<60>が光増感反応により膜破壊を行うことが示された。ついで、膜親和性フラーレンの合成の第一段階であるC_<60>カルボン酸誘導体の合成を行った。すなわち、メチルエステル基を有するベンジルアジド誘導体(Methyl 4-azidomethylphenylacetateおよびMethyl 4-azidomethylphenylbenzoate)を合成し、C_<60>と反応させた。その結果、各々のベンジルアジド誘導体から1,3-双極子付加反応を経て脱窒素した結合骨格を有する付加体を得た。反応過程は高速液体クロマトグラフィーにて追跡し、生成した付加体はカラムクロマトグラフィーにて精製し、^1H-,^<13>C-NMRおよびLSI-MSにて構造決定を行った。その結果、付加体はモノ付加体であり、C_<60>上での付加は5員環と6員環との縮合部であり、5,6-openの形式であることが分かった。合成した付加体は水素化ナトリウムにて脱保護し、メチルエステルからカルボン酸へと導いた。また、上記の方法にてベンジルアジド誘導体とC_<60>との反応により効率よく付加体が得られることが分かったため、アクリジン基を有するベンジルアジド誘導体(9-(4-azidomethylphenyl)acridine)との反応生成物の合成も行った。これらの化合物は、膜親和性官能基を有するフラーレン誘導体としてフラーレンの生体膜に対する影響を調べるための有効なツールとなることが期待できる。
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