研究概要 |
クロボキンの培養液から精製したRNase U_2試料を用いて、酵素反応中間体であるアデノシン2',3'-環状ーリン酸(2',3'-cAMP)をアデノシン3'ーリン酸(3'-AMP)に加水分解する反応速度を種々のpHで調べた。その結果、2',3'-cAMPは、RNase U_2が基質を認識できるpH2.5から5.5の範囲内で数時間以内に50%以上が3'-AMPに加水分解されることが明らかとなった。次に、あらかじめRNase U_2の結晶を作成し、その結晶に2',3'-cAMPを浸潤させることでRNase U_2と2',3'-cAMPの複合体結晶を生成することを目的としてRNase U_2の結晶化条件を検索したところ、酵素反応中間体に立体構造が類似した2',3'-O-イソプロピリデンアデノシン(IPLA)共存下で蟻酸を沈殿剤として新規結晶を得た。分子置換法により初期構造を決定し、分解能1.8ÅでR factor=0.179までに結晶学的構造精密化を進めた。結晶内でのRNase U_2分子の並びは2',3'-cAMPを浸潤させるには密でありすぎたが、IPLAと蟻酸が今まで知られていない様式でRNase U_2に結合していた。IPLAのアデニン塩基部分はGlu49側鎖及びTyr44主鎖と計4本の水素結合を通してRNase U_2により認識され、アデニン塩基部分とリボース部分はantiの関係にあってリボース部分が分子表面に突き出た配置をしている。蟻酸はRNase U_2の触媒部位に位置し、His41のN_<ε2>原子とHis101のN_<ε2>原子の両方に橋をかけるように水素結合している。蟻酸共存下では2',3'-cAMPの加水分解反応速度は50%以下に低下した。これらの事実から、蟻酸はRNase U_2の触媒部位に結合して2',3'-cAMPのリン酸基が触媒部位に結合するのを妨げることで加水分解反応を阻害するという新たな知見が得られた。また、蟻酸の結合位置は負電荷を持つ反応中間体のリン酸基の結合位置を示していると考えられ、His41とHis101が酵素反応過程でリン酸基と相互作用する可能性が示唆された。
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