以前より、海洋生物由来の顕著な生理活性を示す対称及び非対称な環状ペプチドの立体構造について研究を行っている。これまでの研究結果からアシジアサイクラマイド、ユリチアサイクラマイド、パテラマイドAの立体構造は、溶液中においても結晶中においても化学構造と同様にC2対称で関係づけられるコンフォメーションを取るのに対し、化学構造が2回対称から大きくずれているパテラマイドB、C、Dの立体構造はねじれた非対称のコンフォメーションを取るということを明らかにした。以上のことから一連の環状ペプチドの立体コンフォメーションの差異と殺細胞活性との間には強い相関性が考えられるとともに、分子内対称構造からのずれがこれら化合物のとる活性型コンフォメーションの形成に大きく関与している可能性を示唆した。 この様な実験結果の背景のもと今年度はアシジアサイクラマイドの一方のi-ロイシンを(1)ロイシン(2)グリシン(3)フェニルアラニンに置換した誘導体をそれぞれ合成し、NMRによる溶液中でのコンフォメーション解析を行った。その結果誘導体(1)は結晶中での立体構造と同様のC2対称で関係づけられるコンフォメーションを取るのに対し誘導体(2)(3)は8の字にねじれた非対称のコンフォメーションを取るということを明らかにした。今後はそれら誘導体のX線構造解析による結晶中でのコンフォメーション解析及びL1210細胞を用いた殺細胞活性の測定等を行い、結晶場及び溶液状態での立体コンフォメーションとの相関性に関して詳細な検討を行う。更に芳香環のついていないより大きな疎水性の側鎖に置換した誘導体と芳香環をもつトリプトファン誘導体を合成し同様の研究を実施していく予定である。
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