研究概要 |
アポトーシスは,多くの組織および細胞の発生および分化に密接に関わる現象である.しかし,呼吸という生命の維持において極めて重要な細胞であるにも関わらず,肺胞上皮細胞の形成・分化に随伴して生じるアポトーシスに着目した研究は国内外を問わず全く行われていない.肺胞上皮細胞は,ガス交換に関わるI型細胞と肺サーファクタントの産生・分泌を行うII型細胞に分けられるが,胎生期の肺の発生や肺障害後の修復時には,II型細胞が特異的に増殖し,これがI型細胞へと分化すると考えられている.この際,前駆細胞であるII型細胞は過剰に増殖し,I型細胞へ分化できない細胞はアポトーシスによって排除されると推定される.すなわち,分化と細胞死は同時に起こるべき現象であり,同一の調節機構によって制御されている可能性が考えられる.このような観点から,私はin vivoにおける肺胞上皮細胞の分化と酷似した形態変化を自発的に生じるin vitro培養系を確立し,本培養系におけるアポトーシスについて検討した.ラットII型細胞をプラスチック上で培養すると,コンフルエントカルチャー中の細胞数および生存率は経日的に減少した.また,形態学的な観察から小胞化,多核化した細胞が確認され,細胞のDNAを抽出し電気泳動を行うと,培養3日目からDNAの断片化が観察された.すなわち,形態学的,生化学的にアポトーシスが生じていることが確認された.現在,このアポトーシスを制御する調節蛋白を同定するため,bel-2のホモログに着目し,保存領域の配列をプライマーとしたRT-PCRを行い、遺伝子レベルでの同定を検討中である.
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