研究概要 |
これまでの解析で動脈硬化病巣表層部を認識するASH1a/256C抗体の抗原物質は、不飽和脂肪酸を含有するホスファチジルコリン(PC)であることを明らかにした。本年度は、(1)動脈硬化巣に存在する抗原PCの分子種、(2)病巣中でPCと他の中性脂質が複合体を形成する可能性について研究した。 (1)LC-MSを用いて構造決定した動脈硬化巣中の抗原PCは、1-stearoyl-2-linoleoyl PCなど数種のPCで、量の差はあれ普遍的に細胞膜を形成しているPCそのものであった。本抗体は内膜肥厚部の細胞間マトリックスを染色し、内皮細胞、平滑筋細胞などの細胞膜は染色しないことから考えてepitopeの異なるPCの存在が考えられた。動脈硬化巣内膜肥厚部には多量の中性脂質が蓄積しているので、そこで本抗体と全く反応しないtriglyceride(TG),cholesterol ester(CE)が、抗原PCの抗原活性に与える影響について解析した。(2)動脈硬化病巣ホモジェネートをショ糖密度勾配遠心法を用いて分画し、各画分に含まれる抗原活性について検討したところ、抗原活性は、最上部の最も比重の軽い画分(Lipids inclusion)と、細胞膜画分に回収された。各画分中のPCの分布を調べたところ抗原活性のピークに一致した。 さらに、cholesterolの分布を調べたところ、cholesterolはLipids inclusionの画分に最も多く、次いで細胞膜画分に多く回収され、やはり抗原活性の局在パターンと一致した。同様にして正常血管壁ホモジェネートを分画すると、細胞膜画分には多量のPCが認められたにも関わらず、いずれの画分にも抗原活性は認められず、cholesterolの蓄積も認められなかった。これらの結果及び、in vitroの実験で病巣からの分離精製したTG,CEを抗原PCと共存させると、PCの抗原活性が増大することを確認しているので、TG,CEはPCの抗原活性を増強していると考えられ、動脈硬化巣中の抗原物質は、PCそのものではなく、TG,CEの蓄積によって形成される"PC-中性脂質複合体"が真の抗原物質であると考えられた。この"PC-中性脂質複合体"は、病巣中で泡沫化したマクロファージの崩壊によってできる脂質粒のモデルとも考えられるので、次年度は、培養マクロファージに変性LDLを取り込ませ、抗原複合体を分離して、本抗体を用いて泡沫細胞の形成機構について検討したい。
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