研究概要 |
κ-アゴニストであり、μ及びδ受容体拮抗作用を持っていれば、依存性、呼吸抑制等副作用の少ない鎮痛薬になると考えられる。オピオイド受容体の三次元構造モデルにおけるリガンド結合部位の推定から得た知見より非麻薬性鎮痛薬の設計を行い、κ-アゴニストであるKT-90(Takayanagi et al,1990)に、κ受容体に対する選択性を高めるため10位にケトン基を導入した化合物を得た(Sagara et al.,1995)。私達は、この3-acetoxy-6β-acetylthio-10-oxo-N-cyclopropylmethyl-dihydronormorphineをKT-95と名付けた。本研究では、KT-95の生理的・薬利的な応答に基づき、κ-アゴニストの受容体選択性及び鎮痛作用について検討した。KT-95はモルモット回腸縦走筋標本の経壁刺激によるtwitchを抑制し、モルヒネの17倍、KT-90の4倍強かった。KT-95は選択的なκ-アンタゴニストのnorbinaltorphimine(norBNI)により拮抗された。結合実験でもκ-受容体に対して最も強い親和性を示し、KT-95はκ-アゴニストであることが示唆された。一方、マウス輸精管標本における結果及び結合実験でのδ-受容体に対する親和性から、KT-95はδ-アンタゴニストとして作用することが示された。さらに、μ-受容体拮抗作用も示した。後肢加圧法及び酢酸ライジングにより、KT-95はκ-受容体を介してモルヒネより強い鎮痛作用を起こすことが示唆された。またホルマリン疼痛試験において、KT-90及びKT-95は経口投与が可能であった。後肢加圧法において各薬物を経口投与すると、モルヒネの疼痛作用は4時間で消失したのに対し、KT-90及びKT-95は8時間以上持続し、KT-95はKT-90より低濃度で作用した。KT-90及びKT-95はin vivo及びin-vitroによる結果から、身体依存性を形成しないことが示唆された。10位にケトン基の導入でκ-アゴニストとしての活性が上昇することが明らかとなった。強力なκ-アゴニストでありμ-及びδ-受容体拮抗作用を持つKT-95は、κ受容体を介して強い鎮痛作用を示し、副作用の少ない鎮痛薬となり得る可能性が認められた。
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