研究概要 |
ヒト臍帯静脈血管内皮細胞,ヒト大動脈血管平滑筋細胞およびヒト胎児線維芽細胞(IMR-90)の培養系を用い,線溶蛋白の産生に対するカドミウムおよび鉛の作用を組織プラスミノーゲンアクチベータ-(t-PA)およびプラスミノーゲンアクチベタ-インヒビター1(PAI-1)遺伝子の発現(RT-PCRによる検出)と放出抗原量の変化を指標として検討し,以下の知見を得た。 1.カドミウムおよび鉛による線溶蛋白遺伝子の発現の撹乱 カドミウムは内皮細胞および線維芽細胞のPAI-1遺伝子の発現を選択的に増加させ,一方,血管平滑筋細胞においては,t-PA遺伝子発現を選択的に増加させた。これに対し,t-PAおよびPAI-1遺伝子の発現は,鉛による有意な影響を受けなかった。これらの変化は,放出抗原量の変化と必ずしも一致していなかった。 2.カドミウムおよび鉛による内皮細胞の線溶蛋白産生の撹乱を介在する細胞内情報伝達経路 内皮細胞について,カドミウムおよび鉛による線溶蛋白産生の撹乱を介在する細胞内情報伝達経路を検討した。その結果,カドミウムによるPAI-1産生の刺激がプロテインキナーゼCの活性化によって介在されていること,一方,鉛によるt-PA産生の抑制はCyclic AMP依存性の経路によって生じることが示された。 以上から,カドミウムおよび鉛による線溶蛋白の産生調節に対する撹乱は,t-PAおよびPAI-1の転写および翻訳段階に対して異なる様式で作用するだけでなく,細胞種の間に応用様式の違いがあること,また,内皮細胞については,カドミウムと鉛の作用を介在する細胞内情報伝達経路が異なることが示された。
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