本研究は、姿勢(座位・立位)・抗重力活動(立位で体重を支えているか否か)・背景筋活動(体重を支えていない場合、随意筋収縮を行うか否か)という背景条件の異なった組み合わせの元で、頭部回転運動が下肢筋活動に及ぼす影響を、筋電図変化から観察した。なお背景筋活動の随意収縮量は、体重を支えている場合に見られる筋電図量とほぼ同等にした。運動課題は頭部の左方向への水平急速随意回転運動である。被検筋は両脚のヒラメ筋で、筋活動は表面筋電図法とH反射法を併用して観察した。 実験の結果、姿勢、抗重力の有無、背景筋活動の有無の違いに関わらず、H反射には、全被験者で、頭部回転運動の主動筋(胸鎖乳突筋)の筋電図開始とほぼ同時か直後に促通のみが観察された。変化発現のタイミングと変化の方向(促通のみ)から、この現象は、頭部回転運動を実行するための主動筋の随意収縮によって引き起こされたH反射・腱反射の増強現象(Jendrassik効果)が強く現れたためであると考えられる。 表面筋電図では、主動筋筋電図活動の開始と同時又は直後だけでなく、開始前にも変化が観察された。この変化の方向は促通だけでなく抑制もみられた。この筋電図変化は、被験者間には共通性はなかったが、同一被験者では、実験条件が同じであれば再現性が見られた。また、抗重力の条件が異なっても、背景筋の活動量が条件が同じであれば基本的に同じパターンが再現された。 これまで運動ニューロンプールの興奮性の変化は、ダイレクトに同じ変化として筋活動に現れる構造になっていると考えられてきた。しかし本研究結果から、H反射と表面筋電図で観察された、変化発現のタイミングも変化の方向(促通と抑制)も一致しない場合のあることが示唆された。これはどのような中枢・末梢の仕組みによるものなのか、どのような条件下でそれは顕在化するのかを、今後さらに実験を重ねて検証していきたいと考えている。
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