本研究は、浅水位において様々な歩行を速度を変えて行い、各種歩行に必要な酸素摂取量を明らかにすることで各々の運動の強度を評価し、歩行運動プログラムを作成する基礎となる運動強度と運動効果に関する尺度表を作成することであった。健康な女子大学生12名(身長159.5±4.1cm、体重52.1±2.8kg)を被験者として、水深90cmの温水プールにおいて各種歩行(通常歩行、下腿振り出し歩行、大股歩行、摺足歩行、腿挙歩行、左右開脚歩行、後ろ足引きつけ歩行など)15m/分〜50m/分の範囲で実施した。その間の酸素摂取量、心拍数、筋電図をテレメータで送信、コンピュータに記録、後日解析を実施した。筋電図の記録は、大腿直筋、外側広筋、内側広筋、大腿二頭筋、腓腹筋、ヒラメ筋、前脛骨筋から行なった。測定の結果、20m/分〜50m/分の通常歩行では、0.5l/分〜1.7l/分の酸素を必要とし、歩行速度によっては非常に強度の高い運動になることが明らかになった。また、下腿振り出し歩行では、蹴り出しの際に前脛骨筋に大きな放電が認められ、高齢者の転倒を防止し、歩行機能改善をもたらすには下腿振り出し歩行が非常に有効な歩行方法となることが示された。更に、25m/分〜35m/分で行なわれる摺足歩行においては、脚全体を挙上する大腿直筋や腸腰筋などに等尺性の筋力発揮が必要とされ、この歩行が脚筋力改善に効果的であることなどが明らかになった。また、従来から世間一般に行なわれている胸部水位における同種の測定を通常歩行について実施した結果、測定された脚筋のいずれにも十分な放電が見られず、酸素摂取量についても1.1l/分まで上昇が認められただけであった。このことから、水泳の補助運動として現場で行なわれている水中歩行は、歩行機能改善の有効な手段とはならないことが明らかになった。
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