研究概要 |
本年度は活動制限に伴う筋萎縮に対する運動の軽減効果と加齢の影響について検討した.実験には4ケ月齢(若齢期)と20ケ月齢(老齢期)のF344系雌ラットを用い,3週間の後肢懸垂を行い,後肢懸垂期間中の筋運動の効果を収縮特性,組織学的特性,生化学的特性の変化から調べた.運動は等尺性の筋力発揮を主体とするレジスタンス運動(体重の約30%の重りをつけ,傾斜80度の金網の床面で維持)とし,1日30分,週6日行った.3週間の後肢懸垂により,ヒラメ筋重量は40〜50%減少した.ヒラメ筋の最大張力の低下は筋重量の低下を上回り,したがって,後肢懸垂により筋重量および筋断面積あたりの最大張力の低下がみられた.しかし,後肢懸垂に伴う筋力発揮能の低下に対する加齢の影響は認められなかった.後肢懸垂ヒラメ筋では,筋線維の部分欠損,Gomori染色で赤染されるragged red fiber,ATPase染色で酸性側,アルカリ側いずれの前処理においても失活する線維などの異常所見が観察された.後肢懸垂期間中に負荷した等尺性運動は,ヒラメ筋の後肢懸垂に伴う筋線維の変性,崩壊を抑制し,最大筋力の低下を軽減したが,その運動効果は老齢期に比べ,若齢期で顕著であった.筋原線維蛋白濃度の低下が筋重量及び筋断面積あたりの最大張力の低下の原因と考えられたが,老齢期では,運動刺激に対する筋蛋白合成応答が低下していることが示唆された. 以上の結果から,老齢期での活動制限を余儀なくされた場合の筋の退行性萎縮の病態は若齢期と同じであることが示された.また,筋萎縮に対する運動効果の程度は,若齢期に比べ老齢期で低いものの,正の効果を示すことから,老齢期においても筋萎縮に対する運動の有用性が示唆された.今後は活動制限解除後の筋機能の回復とそれに対する運動負荷の影響を若齢期と老齢期で検討する予定である.
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