近代スポーツはその大半がイギリスで礎を与えられた。だが、近代スポーツが出現する以前のイギリスには、前近代的な娯楽・スポーツが数多く存在した。たとえば、闘鶏、闘犬、熊がけ、牛がけ、牛追いといったアニマル・スポーツは、今日からすればいずれも残酷で血なまぐさい娯楽であったし、拳闘や棒試合など、人間が直接行うものでも、流血を不可避とするスポーツが少なからず存在した。本研究によってあきらかとなったのは、以下の点である。 1.「ブラッディ・スポーツ(流血をともなうスポーツ)」の多くは、とくに王政復古後、ジェントルマン階層のパトロネジを得るとともに、賭を介して民衆のあいだでも大いに人気を博したこと。 2.18世紀後半からは、とくに福音主義勢力とそれによる娯楽批判の高まりとともに、その残酷性に対する批判が高まり、「ブラッディ・スポーツ」がその批判対象となっていったこと。 3.アニマン・スポーツについて1835年の動物愛護法が、また拳闘についてはコモン・ロ-の罪状が適用されることで、非合法と見なされたこと。 4.しかし、ジェントルマンのパトロネジを得た「ブラッディ・スポーツ」は、「八百長試合」を排除し、賭けを公正に行わせるために、ルールの成文化、そして統轄団体の成立を促した。すなわち、民衆の社会規範とジェントルマンの文化が賭博や残酷性を介して、近代スポーツ成立の素地を作りだしていたのである。
|