研究概要 |
本研究の目的は,基盤地質が異なる複数の山地源流域において,降雨流出過程に伴う地中水の挙動と一般水質および安定同位体比の形成機構の関係を明らかにすることであった.本目的を達成するために,長野県下伊那郡の天竜川支流にあたる小渋川源流域(中古生層基盤)および与田切川源流域(花崗岩基盤),さらに長野県南佐久郡の千曲川支流にあたる三沢川源流の川上試験流域(新第三紀火山岩基盤)の3つの小流域を研究対象とし,小渋・与田切両流域においては水文観測・土壌水分観測・採水および試料の一般水質・安定同位体分析を,また川上流域においては既採取試料の安定同位体分析を実施し,3流域における結果を比較検討した.その結果以下のことが明らかとなった.(1)与田切川流域および川上流域では,降雨に対する河川流量の増加・減衰が速やかであるのに対して小渋川流域では,降雨のピークに対して河川流出は約半日遅れて応答し,降雨後の流量の減衰もきわめて緩慢であった.(2)降雨時に小渋・川上両流域の斜面土層中では,鉛直下方方向への地中水流動成分が卓越し,とくに小渋川流域では地中水のかなりの部分が基盤中に浸透する傾向がみられたのに対し,与田切川流域では斜面方向への(斜面にほぼ平行な)側方流動成分が卓越した.(3)小渋川流域の河川流出水中におけるCa^<2+>,SO_4^-濃度は,林内雨・土壌水中のそれと比較し,つねに3〜5倍の値を示した.これは,地中水が基盤中を降下浸透する過程において基岩の風化等の影響を受けるためと考えられる.(4)小渋川流域・川上流域においては,斜面内土壌水の^2H・^<18>O同位体比が,地表面から深度1mの間に均質化する傾向がみられた.一方与田切川流域におけるそれは,時空間的な変動がきわめて大きく,鉛直方向の均質化傾向は認められなかった.このような対照性は,3流域における斜面内の地中水の挙動の違いによって生じるものと思われる.
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