研究概要 |
1994年10月7日,ブ-タン王国中西部の町プナカを洪水が襲い,死者16名および家屋損壊の被害が発生した.この災害は,プナカの町を流れるポ川の上流部で氷河湖が決壊したために発生したと報じられたが,洪水発生源がヒマラヤ主脈に近接した山奥に位置し,大縮尺の地形図や空中写真が利用できないため,災害発生状況の全貌を知ることが難しかった.本研究では,この氷河湖決壊洪水の発生源となった氷河湖の立地条件・洪水流流下区間の被災状況を明らかにするために,災害発生前後に撮影された衛星画像(KFA1,000,JERS-1,SPOT-2)の画像解析を行った.さらに,衛星画像からブ-タンにおける氷河湖の分布を明らかにし,地形条件等から特に決壊の危険度が高いと考えられる湖の抽出を試みた.その結果,以下のようなことがわかった.決壊した問題の湖は,ポ川最上流部のU字谷底でモレンーンにダムアップされた長径約1.9km,短径約0.6kmの氷河湖であった可能性が高い.1994年12月撮影のSPOT-2衛星画像には,KFA1,000(1985年12月撮影),JERS-1(1993年11月撮影)画像で水域と確認された範囲に,新鮮な湖底堆積物の露出すると考えられる領域が読みとれた.この湖の直下流には,1994年12月時点でモレーンなどの古い地形がかなり残されていることから,洪水流は,流下とともに勢力を増幅していった可能性がある. これまでに解析の終わったポ川流域(ルナナ地域)には,大きく見ると,カ-ル底やロックベ-ズンに形成された氷河湖と,U字谷底でモレンーンにダムアップされた氷河湖の2タイプが存在する.1994年洪水の様に決壊して洪水を発生させる危険性が高いのは後者のタイプであるが,このような湖の殆どは,ヒマヤラ主脈の流域界から南流する大規模な氷河の存在と関連して形成されていることがわかった.
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