本研究では、琵琶湖の沈水植物帯と内湖のヨシ帯をフィールドとし、小・中学校での環境教育の中で、生物多様性概念が平易に理解できる野外学習教材の開発を目的として、定期的な野外観察を行った。すなわち、沿岸域沈水植物帯では夏季にスノ-ケリング3点セットを利用した沈水植物帯の植生と魚類の行動観察を、内湖のヨシ帯では双眼鏡とフィールドスコープを利用した2週間毎のヨシ帯辺緑部の植生と水鳥の行動観察を行った。この結果、動物の生息地としての植物に注目すると、生物多様性の意味を直感的に理解できる観察プログラムが作成できることが明らかになった。特に、スケッチやマッピングなどの景観生態学的な手法と動物の行動観察を組み合わせると、有効な野外観察プログラムの作成が可能になる。これまでの野外生物観察では、生物の種名や特定の種の生態を教えることに重点がおかれてしまい、生物間のつながりや地域的な生物群集の特徴などは教科書的な説明で終わっていることが多いようである。すなわち、珍しい種や観察できた種類数に焦点があてられ、「ある場所では種類数が多いのに別の場所では少ないのはなぜか」という観点が不足している。そこで、次のような野外観察プログラムを作成した。まず植生に注目してフィールドマップを作成する。この際、景観のスケッチを行うことにより地域生態系の特徴が観察できる。次に、フィールドマップを植生などから細分する。この過程で、フィールドが植生の単調な場所から複雑な場所まで多様な部分から構成されていることを学習できる。その後に、鳥類や魚類など、目に付きやすいグループを対象とし、「どんな動物が、どこで、何をしているか」の行動観察を行うのである。この結果、複雑な植生を持つ場所の方が動物の種類数が多く、これには多様な餌生物の存在と複雑な隠れ場所の存在が関係していると理解でき、生物多様性概念が平易に学習できると考えられる。
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