研究概要 |
学習指導要領<音楽>における即興・創作の系統性は、指導目的の発展と領域構成,領域・教科間の相互関係,音楽構成要素と様式、の3点より再検討する必要が認められる。 (1)学校段階と領域構成による系統性の問題 我が国の各種学習指導要領において、即興・創作は何れも表現領域に位置付けられている。ドイツ語圏の教育課程において、即興・創作の領域構成は教育的意図と共に学校段階に従って系統的に発展する。初等教育段階では自然発生的・根源的な各種音楽活動として、前期中等教育段階では動きとの相関領域において、後期中等教育においては演奏・創作をいう表現領域として即興・創作が取り上げられている。即興表現に関する記述が見られない幼稚園教育要領と共に、学校段階による目的と領域構成の系統は再検討を要する。 (2)他領域・他教科との関連・系統性の問題 ドイツ語圏の学習指導要領においては、即興・創作と聴取・鑑賞との関連性が随所に記述されており、包括的な活動という性格が強調されている。我が国の即興・創作は表現領域に吸収され、鑑賞との関連は一般論でのみ触れられている。より具体的な領域間の関連性の記述と領域構成の再考によって、即興・創作が表層的な音遊びに留まらない系統的発展性を確固にすると考えられる。また、他教科との関連もドイツ語圏ではより明確に示されている。領域の相互関連においてはH.Schaarschmidt、教科間の関連についてはW.Roscherの即興の理論との整合性が確認され、合わせて今後の研究課題と考えられる。 (3)要素・様式の系統性の問題 我が国の小学校学習指導要領では、音楽の主要3要素によって即興・創作の系統が図られているが、音楽様式による系統性に関する記述はみられない。複数の現行音楽教科書においては、低学年で伝統的なわらべうたによる旋律づくりが扱われておらず、様式の系統性は再検討を要する。中学校では、伝統音楽・ポピュラー音楽・現代音楽等の各種様式や、音色・音強・音長といった主要3要素以外の音楽的諸概念と即興・創作の具体的関連についての言及が弱く、ドイツ語圏と比較考察からの検討の必要性が指摘される。
|