筆者は、農学系留学生の専門日本語運用能力を予備教育段階で養成する一方法として、種々の農学系学会が刊行する雑誌の日本語論文に共通して高頻度で出現する語彙を指導することが効果的であると考えた。そこで、本研究は、将来農学系日本語論文の読解や執筆が必要となる、予備教育段階の農学系留学生に対する効果的な日本語語彙指導のための基礎資料を得る目的で、農学系8会雑誌に掲載された40編の日本語論文の動詞、形容詞(イ形容詞とナ形容詞)、副詞、および接続詞の使用頻度について調査を行った。その結果、限られた動詞、形容詞、副詞、接続詞の語彙が頻繁に用いられることが判明した。このことから、農学系留学生の専門日本語運用能力を予備教育段階で養成する一方法として、本調査で得られた高頻度語彙を利用することが可能であると考えられる。これらの高頻度語彙の多くは、動詞の一部を除いて専門性が高くなかったため、日本語教員による指導が可能である。以下に品詞別語彙調査の結果を要約する。8学会雑誌にほぼ共通して最も高頻度で出現した動詞は「なる」「示す」「する」「行う」であった。また「見る」「認める」はほぼ同義で受け身形での使用が目立って。さらに、使用頻度が低くなるほど、専門性の高い「漢字2字熟語+する」動詞が増加した。これらの専門性の高い動詞は農学の専門教育によって留学生に指導されるべきものであると言える。次に、イ形容詞はナ形容詞と比較して意味が平易であり、専門性の高い語はほとんどなかった。一方、ナ形容詞の多くは「顕著な」「密接な」等のように漢字2字を含んでいた。また、副詞は「ほぼ」「やや」等のように程度あるいは数量を表す語が多く出現していた。最後に、接続詞は「および」「また」「しかし」の使用頻度が圧倒的に高かった。農学系日本語学術論文において使用頻度の高かった接続詞の主たる機能は、並列、逆接、帰結、展開、選択、補足であった。
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