研究概要 |
本研究課題では,多変量回帰モデルのパラメータ推定に関して,(A)改良の頑健性,(B)縮小推定の新たな展開,(C)FGLSの非許容性-共通な回帰係数の推定の場合-など,理論的に有効な推定手法に開発と新たな理論の展開を行った。また,(D)分散成分の推定,(E)分散比の二重縮小推定,についてベイズ理論と関係づけながら理論的に有効でしかも応用上有用な推定手法の開発を行った。 (A)では,正規分布での推測理論が楕円分布においても頑健的に成立することを示した。具体的には,回帰係数のスタイン型縮小推定量による改良や共分散行列の直交不変な推定量による改良が,正規分布を含んだ一般的な楕円分布においても成り立つという,いわゆる「改良のロバストネス」を示した。一般の共分散行列に対して示すことができた点が画期的である。 (B)では,多変量回帰モデルと成長曲線モデルが混合している場合に,回帰係数の縮小推定量による改良についての一般論を展開した。(C)では,2つの回帰モデルの共通な回帰係数の推定問題を扱った。一般化最小2乗推定量(GLS)は誤差分散の重み付き最小2乗推定量であるが,それらの誤差分散に不偏推定量を代入したFGLS推定量が最も自然な推定量として用いられる。この推定量の許容性が長い間の問題であったが,この研究において,実は不偏推定量のクラスの中にFGLS推定量を改良するものが存在することを証明し,その改良の程度を数値的に明らかにすることができた。 (D)は,応用上重要な小地域推定の問題を解決する上で必要な推定手法である。通常の分散成分の不偏推定量は負値を取り得てしまうという不合理な性質があるため,最近開発されたIERD法を用いて,正値をとってしかも不偏推定量を改良する優れた推定手法の開発を行った。(E)では,分散化の二重縮小推定量を求める問題を考察した。分散比の分母,分子を同時に縮小する,いわゆる二重縮小推定量の導出は技術的に困難とされてきたが,IERD法を用いることによってその構成に成功した。(D),(E)については,導出した推定量のベイズ的性質も論じた。
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