研究概要 |
今年度の研究では,昨年度に引続き,機能分散マルチプロセッサシステムのためのリアルタイムカーネルの実装ならびに評価を行った.昨年度までは,スケーラビリティを持ったリアルタイムカーネルの実現に重点を置いてきたが,今年度はそれに加えて,プロセッサ間の同期にそのプロセッサで実行中のタスクの優先度が反映される場合の実現技法にも取り組んだ. スケーラビリティを持ったリアルタイムカーネルの実現については,まず,それに求められる性能要件を4つの項目に整理し,昨年度までの研究で提案した方法を活用してそれらをの要件を同時に満たすリアルタイムカーネルの実装を行い,その性能評価を行った.その結果,ロックがネストしないケース(言い換えると,複数のプロセッサで実行されているタスクが待てるような同期・通信オブジェクトがない場合)については,4つの性能要件を同時に満たす実現に成功した.一方,ロックがネストするケースについては,これまでに提案した方式だけでは4つの要件を同時に満たすことができないことが明らかになった.そこで,さらに進んで,この困難を解決することを目的に,新しいプロセッサ間同期の手法を提案した.この新しい同期手法を用いて,ロックがネストするケースの困難を解決できるかどうかは,来年度以降の課題となる. タスクの優先度が反映される方式については,まず,プロセッサ間のスピンロックにおいても,上限のない優先度逆転の問題が起こることを指摘し,それを解決するために優先度継承スピンロックを提案した.さらに,提案した優先度継承スピンロックのアルゴリズムを用いてリアルタイムカーネルを実装し,その性能評価を行った.その結果,提案した方式を用いて,プロセッサ間同期にタスクの優先度が正しく反映されることを確認し,実現技術を確立した.
|