本研究では、心理検査法のひとつである文章完成テストの結果を統計的自然言語処理の手法を用いて定量的に評価する方法を開発し、その臨床的応用について検討した。また同時に、形式言語理論に代表される従来の言語研究よりも広い枠組みから文章というものの性質について考察し、いわゆる文章の正しさとはどのようなものであるかを考案した。 これまでに、診療現場で実施した23件の検査結果および健常者ボランティアによる12件の検査結果について本研究で提案する2つの解析手法の適用を検討し、その検討結果から定量的評価システムを作成した。このシステムに、日本電子化辞書研究所の提供するEDR電子化辞書に含まれるコーパスを組み合わせることで解析を行ったところ、同手法による解析の妥当性を示唆する結果を得ることができた。特に、同一の被検者について、経時的な症状変化の定量評価に本手法が有用であるとの見通しを得た。 また、コーパスとしてネットワークニュースを用いる場合や、健常者の文章完成テストを用いる場合などについて、EDRコーパスを用いた場合と比較するなどの試みを通して、文章の正しさについての考察を行った。 今後、開発したシステムをより広く診療現場で利用することで、従来困難であった精神疾患の進行状態の客観的尺度による測定に関するデータを得ることを試みる。また、一般の文章の完成度を測定することへの応用についても検討する予定である。
|