研究概要 |
本研究では,連続時間金融市場に参加する小規模投資家の効用最大化問題において,不確実性をもつ資産の平均収益(対数拡散過程の場合のドリフト・パラメータ)が観測不可能である場合を考察する.Merton(1971)によって与えられた従来の完全観測下モデルの枠組みでは,対数ブラウン運動に従う不確実資産の価値過程のパラメータは既知の定数であると仮定されていた.統計学的な見地からすれば,この完全観測の仮定はきわめて非現実的であり,また実践への応用に関しても,消費・投資主体の持つ事前情報を最適化問題に反映させることは,より有益な判断材料を与えることになる. 本研究では,Fleming and Rishel(1975)で扱われている標準的な消費・投資決定問題について,そのドリフト・パラメータが未知の場合を考察した.拡散パラメータは既知かつ時不変であるものと仮定する. 一般的な効用関数と定数ドリフトの過程の下で,完全観測問題の解析解が,Karatzas,Lehoczky and Shreve(1987)によるマルチンゲ-ル・アプローチによって得られたことは有名である.マルチンゲ-ル・アプローチにより,部分観測問題は2つの退化した楕円型偏微分方程式のコ-シ-問題に帰着される.これら2つのコ-シ-問題から退化型ハミルトン・ジャコビ・ベルマン方程式が確認される.この結果は一般的な退化型消費・投資決定問題に関するマルチンゲ-ル解の特殊型として扱うことができる.(Hitotsubashi Journal of Economics,1997発表予定) 一般的な効用関数を仮定した単純ベイズ・ドリフト問題の明示解については,現在論文を準備中である.
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