本課題では時間距離データの構造を表現する新手法として時間距離地図(本研究では「時間距離網」と呼ぶ)を開発し、その用途、、限界と可能性を考察した。時間距離網は対象都市群とある基準によって選んだ都市群とその都市間関係を表す辺によって構成する表現手段である。従来時間距離に関する地域構造の表現に使われている多次元尺度近似法に比較すると、時間距離網では次の2点の長所がある。(1)辺に関して誤差を含まないので、図の信頼性と限界が明らか。(2)個々の都市間関係が辺によって表されているので、辺の太さ、色などによって情報(例えば交通量など)を付加して表現できる。また、次の2点の短所が挙げられた。(1)辺の数・長さによって作図できない場合がおきる。(2)地域構造は辺によってのみ意味を持つので、慣れないと図の意味についての誤解がおきることがある。これらの短所に対しては(1)作図可能の必要条件の研究、(2)特殊なスケール等の工夫などによって誤解しにくくする、といった改良を行った。 本研究の結果によって、今後、地域構造を表現する場合には、必要に応じて二種類の方法から目的に沿うものを選ぶことが可能となった。なお時間距離網はデータに対して一意に決まる作図法ではないため、作図アルゴリズムの設計が難しく、当初の目的の一つとした作図の自動化は未完成である。今後の課題として追求していきたい。 公共交通に注目した時間距離網によって関東・中部地方、東北地方、山形県の精細な都市間構造、ヨーロッパの各国の地域構造を分析した。またこの手法を情報交通(通信通話)データの表現・分析に活用することを目的とした研究も進めている。これについてはデータ作成が終了し、表現の基礎となる通信構造の数理モデル「二項重力モデル」を構築した。このモデルはまだ説明力が不十分なので、改良を加えた上で、地域構造の視覚化を進める計画である。
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