本研究では、商業銀行の資産負債管理(ALM)に焦点を当てて、モデルの構築とその適用および分析を試みた。まず初めに最適化手法の特徴、数理計画法によるモデル構築の具体的手順およびALMモデルの基本的な考え方をまとめた。これらの考え方をもとに、下方リスクの概念を考慮しつつ、不確実な状況をシナリオとして記述したALMモデルの定式化を行った。多期間にわたる大規模な問題にも対応できる線形計画モデルとして構築した。問題を解くための方法論として、下方リスク(目標利益への不達成度合)とそれとトレードオフの関係にある(期待)利益を同時に目標として取り扱うことができる目標計画法を適用した。そして、構築したALMモデルに対する数値実験を行った。リスクと利益の目標値やBIS規制の対象である自己資本利率の制約値を様々に変化させたケースを行い、モデルの有用性を検討した。本研究で示したモデルはプロトタイプであり、かつ数値実験で用いた例も小さいものである。しかし、モデル化にあたっては、問題にかかわる本質的な要因を含めており、モデルの定式化やその特徴および数値実験より得られた結果から、これらのモデルがALMにおける問題を解決するのに有用なモデルであることを示唆することができた。また、個々の銀行の具体的な条件に合わせて、モデルにそれらの条件を追加および修正を行うことにより、実務へも十分に対応できるであろう。 さらに、本モデルをポートフォリオ最適化問題のためのモデル(平均・オープンL偏差モデルと呼ぶ)として、一般化し、東証一部株式銘柄のヒストリカルデータを用いた数値実験も行った。この結果は、年金・生保ALMやアセットアロケーション(資産配分問題)などに対する数理計画問題を解くための基礎的な研究結果になることが期待できる。
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