本研究では火砕流による被害範囲を高精度に予測するため、以下のような検討を行った。まず、雲仙普賢岳で発生した火砕流に関する資料を基に、メラピ型火砕流の発生から流下に至る過程を調べてみた。その結果、流下開始直後の火砕流は、大きな溶岩ブロックで形成される粒状体流れとなっていること、その粒子が自爆や衝突などによってガスを噴出しながら細粒化するにつれて流動化現象(fluidization)が起こることなどが分かった。そこで、粒状体流れや流動化流れに関する研究をもとに、模擬火砕流に関する流路実験の結果を用いて、火砕流の抵抗則を導いた。粒子の細粒化過程に関しては、粒子の崩壊過程で生じる層流せん断がその主たる要因であると考え、粒子の衝突回数を速度勾配と粒子数密度を用いて評価した。これにより、粒子数の増加率を計算し、粒径、粒子数の時間的変化を表すことが可能となった。ついで、火砕流の堆積過程に関する流路実験の結果を基に、流動化流れにおける火砕流の堆積速度を求めた。この速度は堆積過程が静的な釣り合い条件から決定されると仮定した結果、得られたものである。以上のような検討をもとに、火砕流の流動・堆積現象に関する2次元数値シミュレーションモデルを構築した。このモデルを1991年6月3日に雲仙普賢岳において発生した火砕流に適用してみた。火砕流の供給量を50万m^3とし、流動化流れが生じる限界の粒径を1mmとして計算を行った結果、火砕流の堆積範囲をかなり良好に再現できることが判明した。
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