本研究においては、数KeV程度のX線を測定対象とし、数kV程度の正の電位Uに保たれた導電性のLB膜に入射させ、光電効果により生成した電子を直接測定するような検出器について検討を行った。生成した電子は電位0に保たれた収集電極に向かって移動し、与えられたポテンシャルを乗り越える運動エネルギーを持つ電子のみが収集される。電位Uを変化させながら収集された電荷を記録すれば、X線のエネルギー測定が可能になる。この方式によれば、従来の半導体検出器に比較して信号キャリア生成数のゆらぎの影響を受けずに済むため、数電子ボルト程度の超高エネルギー分解能のX線検出器が実現されるものと考えられる。光電効果の確率は原子番号Zの5乗に比例するので、ここではLB膜中に原子番号82の鉛原子を取り込むことで光電効果の断面積を大きくとり、また多段に重ねることにより、検出効率を大きく取ることについて電子軌道のシミュレーション計算等を用いて検討した結果、生成した電子を効率良く収集するために変換膜の形状を楔型にすれば良いということが分かった。また、検出器の原理を検証するために、東京大学工学系研究科の石榑・勝村研究室の協力を得て鉛を取り込んだLB膜を電子顕微鏡用のカーボンメッシュの上に乗せた試料を作成してもらい、本研究費にて購入した電圧・エレクトロメータを中核として計算機制御により電圧を変化させながら収集電荷を測定するシステムを構築し、現在実験を行っているところである。LB膜の取り扱いや実験装置におけるLB膜の支持・セッティングなどに手間取っているため残念ながら本研究の実施期間内においては未だ有用な実験データは得られていないが、今後、実験装置の問題点を改善した上で本格的な実験を行っていく予定である。
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