本研究の目的は、デジタル波形処理における波形識別、特に半導体検出器のエネルギー分解能の改善に、ニューラルネットワークを適用することの可否に関して検討することである。 まず、ニューラルネットワークを用いたデジタル波形処理により、CdTeとCdZnTe半導体検出器のγ線に対するエネルギー分解能の改善を行った。はじめに、これらの検出器の信号を、高速デジタイザーで取得し、その波形とγ線の相互作用位置とのおおまかな関係を調べた。ついでこの観察結果に基づいて調整したシミュレーションコードを用いて、波形とγ線の相互作用位置に関する正確な関係を得て、これをニューラルネットワークを学習させる際の教師データとした。 次にこの学習済みのニューラルネットワークを用いて、事象ごとの波形の識別を行い、波形から相互作用位置に関する情報を得て、上述の半導体検出器のエネルギー分解能および光電ピークやコンプトン連続部等のスペクトル形状の改善を試みた。120keVから662keVの範囲のγ線に対して、顕著なスペクトル形状の改善が見られた。 またこの手法の応用として、電荷分割方式位置検出型比例計数管の位置検出を、従来のように波高やパルスの到達時間を用いた演算に頼ることなく、波形そのものから位置情報を抽出することを試みた。これは前述の計数管においては、出力波形が放射線の相互作用位置に依存するという事実に基づき、その違いをニューラルネットワークで検出するものである。有効長が500mmの位置検出型比例計数管に対して良好な直線性と、1%以下の位置分解能が得られた。
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