本研究では、まず、黄砂粒子上に沈着したSO_2が粒子表面上でどの程度硫酸塩へ酸化されるか(以下、硫酸塩転化率)について検討する前に、黄砂粒子抽出液中では、溶出する鉄などの重金属成分による触媒作用により、硫酸塩転化率を過大評価する可能性があるために、基礎実験として抽出用溶液に酸化抑制剤を添加して亜硫酸塩(S(IV))と硫酸塩(S(VI))を分析する方法についてMilli-Q水で調製した亜硫酸ナトリウム水溶液中の反応から検討を行った。酸化抑制剤には、3価の鉄イオン(Fe(III))のマスキング剤としてよく用いられるトリエタノールアミン(TEA)を用いた。その結果、pH4ではFe(III)による急速なS(IV)酸化が見られたが、アルカリ性(pH9.5、0.11mM Na_2CO_3/0.03mM NaHCO_3緩衝液)、TEA濃度をモル比でFe(III)濃度に対し4倍以上の過剰な条件に設定すれば、水相S(IV)濃度の減少を24時間でその初濃度の2%程度まで抑制できることを見いだした。 次に、温度制御用ウォータージャケットを外側に装着した同軸円筒形流通反応器の内管の外壁面に黄砂粒子の主要成分である炭酸カルシウム(CaCO_3)粒子をモデル粒子として塗布し、濃度400ppbのSO_2を含む空気に室温、暗条件下で暴露させ、沈着したSO_2の粒子上での硫酸塩転化率を算出した。SO_2の沈着量は高湿度ほどまた暴露時間(5-15時間)が長いほど多い傾向が見られ、別途検討した中空円筒形流通反応器の内壁面に塗布した黄砂粒子への沈着速度が高湿度条件で大きいという傾向と一致した。一方、算出した硫酸塩転化率には沈着量とは異なる傾向が見られ、またその値は30%以下(暴露時間10時間)と低く、暗条件下ではCaCO_3粒子上でのSO_2の酸化は遅いと推測された。黄砂粒子を用いた暴露実験では、黄砂懸濁液のろ過後、ろ液のpHが低下していたことが判明したので、抽出用溶液のもつ緩衝能を上げるなど抽出法を見直した後、硫酸塩転化率について再評価する予定である。
|