大腸菌OxyR蛋白は、細胞内の酸化ストレスを感知して、支配下遺伝子の調節領域に結合して転写を活性化する蛋白である。この研究では、OxyRの持つストレスセンサー、特異的DNA結合、RNAポリメラーゼとの相互作用などの諸機能が蛋白内のどの部分によって担われているのかを分子遺伝学的手法により明かにすることにより、ストレスの感知から遺伝子発現の活性化に至るまでのシグナル伝達の分子機構を明らかにすることを目的として実験を行い、以下の結果を得た。 1)PCR増幅の誤塩基挿入反応を利用して、oxyR遺伝子のコード領域に平均1個のランダムな突然変異を導入した変異oxyR遺伝子ライブラリーを作成し、このライブラリーからDNA結合能、支配下遺伝子の活性化能、酸化ストレスセンサー機能に欠陥を持つ変異oxyR遺伝子を選択した。 2)変異oxyR遺伝子の塩基配列の決定を行い変異の位置を同定を行った。その結果、DNA結合能は持つが、転写活性化能を欠く変異は、oxyR遺伝子内の3カ所に集中していることが分かった。 3)変異oxyR遺伝子を強力なプロモーター下に連結して、変異OxyR蛋白を増産する大腸菌株を作成した。この大腸菌株の粗抽出液を用いた実験の結果、変異蛋白の多くのものは、OxyR多量体形成、または、DNAベンディングに異常を持つことが明らかとなった。 4)数個の変異体は、調べた限りでは野生株と異なる性質は示さなかった。これらの変異体はRNAポリメラーゼとの相互作用に異常を持つものと考えられる。
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